LOGIN<蓮さんへ。今までありがとうございました。蓮さんと一緒にいた時間は夢のようでした。私が蓮さんに甘えすぎていて、いつも迷惑をかけてごめんなさい。私は蓮さんに何もしてあげられなかった。急にお別れすることになった理由を本当は知りたかった。私のダメなところを全部直すって言ったら、もっと一緒にいてくれましたか?最後まで迷惑をかけてごめんなさい。蓮さんは、もっと綺麗で頭も良くて、性格も良くて。そんな人が相応しいと思います。私なんかと付き合ってくれてありがとうございました。毎日が幸せでした。私は、まだ蓮さんのことが大好きです。でも、ちゃんとさよならをします。蓮さんが幸せでいられますように。> 彼女はどこも悪くないのに、なぜ最後までこんなにも優しい言葉をかけてくれるのだろう。嫌味の一つも書かれていない。 涙が頬を伝っていた。 十年以上だろうか、そのくらいぶりに流した涙だった。 愛する人を失う時、こんなにも辛いのか。はじめての経験だから、わからなかった。 美桜はもっと辛いはず。 こんなことを願うことは間違っているかもしれない。 俺はまだ彼女のことをーー。 それから二か月後ーー。「いらっしゃいませ。お客さま、何名様でしょうか?」 私は今、ファミリーレストランでアルバイトをしている。 育ててもらった伯母が病気で入院することになった。意識はあるが、長期間の入院になるらしい。 途中まで一緒に育った伯母の子は、実家からかなり遠くの大学に通学をしている。彼女は薬剤師になりたいという夢がある。私には絶対になりたいという夢がなかったから。彼女の変わりに一旦大学を休学し、地元へ帰ってきている。 退院がいつになるのかわからないから、東京のアパートは退去し、アルバイトも辞めた。 アルバイト先の店長からは「また帰ってきたら連絡して」と言われた。嬉しかったな。 大学にいつかは戻れるのかわからないけれど、せっかく勉強してきたから、退学ではなく休学という方法を選んだ。 親友の優菜とは遠距離になってからも毎日連絡を取り合っている。 伯母には「帰ってこなくてもいいわよ」なんて言われたけれど、入院していると必要なものや書かなければならない書類がある。伯母も離婚をしているから、あまり頼りにしている親類はいないのは知っていた。 伯母は私のことを本当の子どもではないのに、いなく
「あっ!」 すぐわかった。 スーツ姿の蓮さんがこっちに向かってくるのが見えた。 スマホを見ていて、私には気づいていないみたい。 久しぶりに見る蓮さん。 カッコいいな。 呑気かもしれないけど、そう思っちゃう。 蓮さんが私に気づいて、一瞬、歩くのが止まった。「美桜……?」「蓮さん、ごめんなさい。待ち伏せみたいなことして。こうでもしないと会えないから……」 頑張れ、私。「きちんとさよならを伝えに来ました。あと、蓮さんの家にある荷物を取りに来ました。今日はそれだけで帰るので安心してください」 しばらく沈黙が続く。 蓮さんは、なんて返事をしてくれるんだろう。「わかりました。ここでは人目につくので、荷物もありますし、部屋に来てください」「はい」 私は、彼のうしろをついていく。 蓮さんは、別れたつもりでいたのだろうか。 私が<さよなら>と言っても動揺した素振りさえしなかった。 少しでもいい、寂しそうな顔をしてほしかったな。 私の存在は彼にとって、小さなものだったの?「お邪魔します」 久しぶりに入る蓮さんの部屋。 綺麗に整えられた部屋、何も変わってはいなかった。 忙しさが別れの原因だったら、部屋は散らかっているよね。 女の人の物があったらどうしようとか思ったけど、そんな痕跡もない。 二人で座って過ごしたリビングのソファも、二人でご飯を食べたキッチン前の机も、もうここへ来ることがないと考えるとすごく寂しい。 さよならするって決めたのは私なのに。決心がついたと思ったのに、蓮さんを前にすると心が揺らぐ。 リビングで蓮さんと向き合う。 私のこと、こんなにしっかりと見てくれたのは久しぶりかも。「蓮さん?」「俺は……」 その時、彼のスマホが鳴った。「すみません。電話をしてきます」 そう言って彼は寝室ではなく。珍しくベランダに出て行った。 よほど私に聞かれたくない内容なのかな。 早く蓮さんの寝室にある私の荷物を整理して帰らなきゃ。 そう思い、寝室に入る。 ベッドも何も変わっていない。 ここで蓮さんに慰められたり、抱きしめられたり、キスされたり。 幸せだったな。 もう泣かないと決めたのに、涙が溢れる。 ダメだ、我慢我慢。 私は持ってきたボストンバックに自分の荷物を突っ込んだ。 蓮さんの部屋にあった私の
「はい」 正直に答えた。<じゃあ、見ましたか?> 何を……と言いかけたが、止めた。 「見ました。女の人と一緒にいるところと……。あと、タクシーに乗る前のことも……」 しばらく無言が続く。 「蓮さん、どうして?連絡を取れない理由も、会えない理由も。今日のことも……」<すみません。言えないんです。もし……。美桜がこの状況を耐えられないのであれば……> ドクンと心臓の音がした。 <別れましょう。それが美桜にとっては幸せかもしれません> 別れる……。 私は、今まで誰とも付き合ったことがなかった。 大好きな人との別れって、こうも突然に訪れるものなの? こんなに簡単に終ってしまうの? 蓮さんは、そんなに簡単に別れることができるの? 頭の中は聞きたいことでいっぱいなのに、蓮さんに聞くことができない。<もう話せる時間がありません。すみません。もし、最後に会った時の言葉を覚えていてくれるのであれば……待ってい……> 電話が途中で切れた。 すぐかけ直したが、再び彼に電話が繋がることはなかった。「別れる……」 涙が頬を伝う。 泣き崩れるしか私にはできない。 蓮さんが言いかけたこと、頭から離れない。 最後に会った時の言葉って、やっぱり「俺のことを信じてください」だよね? 私はどうすればいいのだろう。 別れたくない。でもこの状況がすごく辛い。 彼の言った通り、別れた方がいいの? 彼はさっきの言葉を伝えて、もう別れたつもりでいるの? 何もかもわからない。自分がどうしたいのかも。 それから二週間、三週間と日々が過ぎた。 蓮さんから来ない連絡を毎日待つ日々。 学校にいる時や、アルバイトをしている間だけは彼のことを少し忘れられた。 しかし、家に帰って一人で過ごしているとずっとスマホを見つめてしまう。 蓮さんが買ってくれたネックスレスは、蓮さんから<別れた方が幸せかもしれない>と言われた時、あの日からつけていない。 蓮さんがプレゼントしてくれたイルカのぬいぐるみは机の上にいる。「蓮さん、どうしちゃったんだろうね?」 イルカくんに話しかける寂しい毎日。 その時、スマホが鳴った。 電話だ。 着信先を見る。「えっ。なんだろう?」 何かあったのだろうか、見慣れない着信先の相手と話す。 「もしもし?」<久しぶり。
あんなところを見て、声をかけられない。 あまりのショックに周りにいる人を考えず、その場に座り込みそうになった。 キスくらいって考えなきゃ。子どもじゃないんだから。蓮さんが他の女の人とキスするなんて。やっぱりもう、私のことなんか好きじゃないのかな。彼女だと思っていないんだろうか。 「大丈夫ですか?」 フラフラしていたのかわかったのか、見知らぬ女の人に支えられた。「あっ、すみません」「おい、花音。なんでそんなに走って行くんだよ?」 女の人の彼氏?だろうか。「具合悪いんですか?大丈夫?」 花音と呼ばれた女の人が私を支えてくれている。「救急車呼ぶか?」 彼氏と思われる人がスマホを取り出す。「気が早いです。お姉さんから話を聞かないと」「あっ。そこまでではないので、大丈夫です。すみません。ありがとうございます。ちょっと精神的に具合が悪くて……」「そうなんですか……」 二人は、私を心配そうに見ている。 良い人たちだな。涙が出てくる。「えっ、どうしたの?私で良かったら、話を聞きますよ?同じ年くらいだし。ねっ?いいですよね?」「お前な、俺はいいけど。勝手に人の事情に突っ込んでいくなよ。迷惑かもしれないってことを考えろ」 この二人みたいに、言いたいことを言い合えることができたら、こんなことにならなかったかもしれない。 私がさっき彼を引き留めて、話を聞けていたら、もしかしたら誤解が解けたのかもしれない。「美桜!遅くなってごめん!混んでて」 優菜が走って来てくれた。「あれっ?どうしたの?」 優菜は状況が飲み込めず、困惑していた。「ちょっと、精神的に具合が悪くなっちゃって。花音さんが助けてくれたの」 優菜が私を支えてくれたため、花音さんは私から手を離す。「ありがとうございました」 二人に頭を下げ、お礼を伝える。「いえいえ。何もしてませんから。お身体、大切にしてくださいね」 そう言って二人は私たちから離れていく。 自然と彼氏さんが花音さんの手を取り、自分のポケットに入れたのが見えた。 いいな。羨ましい。 嫉妬とかじゃない。ただ単純に羨ましいと感じてしまっただけ。 私はもう蓮さんと手も繋げないのかな。 私のアパートに帰り、私の見たことを優菜に話した。 その時には落ち着くことができたから、泣くことは我慢した。「なにそれ
蓮さんと会えなくなって、二週間。 毎日やり取りをしていた連絡も、今は一切来なくなった。 私から送る連絡も既読にはなるが、返信がない。電話をかけても折り返しはない。「彼を信じる」とは伝えたけれど、理由もわからず、こんな状況のため落ち着くわけがない。大学がある日は優菜に毎日相談をしてしまう。「今日も連絡がなかったんだよね」「そっかぁ。どうしたんだろうね?黒崎さんもなんか事情があるのはわかるけどさ、一言教えてくれたって良くない?」 優菜の言葉に、私はなんて返事をしていいのかわからない。<蓮さんのことだから、大丈夫>って自信を持って言えればいいのに。 彼と繋がっていた毎日は、なんでもない平凡な日でも楽しく幸せに感じていたのに、正直今は不安という気持ちが一番だ。 蓮さんの声が聞きたい。 連絡が取れない理由を知りたい。 今日はアルバイトもお休みだし、一瞬でもいいから彼に会いたい。<少しだけでもいいので、会えませんか?> 我儘かもしれないが、そうメッセージを送ってしまった。「そのくらい、いいんじゃない?理由を教えてくれない蓮さんが悪いよ」 お昼くらいに送ったメッセージは、夕方になり講義が終わる頃になっても返信はない。「じゃあさ、直接家に行っちゃえば?黒崎さんからいつでも来ても良いって言われていたんでしょ?」 いつでも来てもいいと蓮さんには言われていたけれど。 今は状況が違うような気がして行動に移せない。「私も今日アルバイト休みだし、一緒に付き合うよ!黒崎さんに会いに行こう。親には遅くなるって連絡しとくから!」「えっ?本当?」 一人で行く勇気がなかった。 優菜が一緒なら心強い。「黒崎さん、帰り遅いんでしょ?じゃあさ、とりあえず近くのファミレスで時間を潰そうよ」「うん」 講義が終わり、蓮さんの家の近くのファミレスに移動をして時間を潰していた。 「ねえねえ。美桜、大丈夫?顔色悪いよ」 緊張と不安で押しつぶされそう。 前みたいに普通に話せるかな? 何年も会っていないわけではないけれど、いつもの自分でいられるだろうか。 そんなことを思いながら、ガラスに映る人々を見ていた。 ファミレスの席は窓際だった。 通り過ぎる男女がとても幸せそうに見える。 私もこの前まで、あんな感じだったのかな。蓮さんと並んでいた時、カップルに
メッセージを開くと<今日会いたい>という蓮さんからのメッセージだった。 いつもなら<今日、会えますか?>って連絡をしてくれる彼だったから<会いたい>普通のメッセージかもしれないのに、何かあったんじゃないのかって不安になる。 蓮さんが私のアパートに来てくれることになった。 私の部屋は狭いから、いつもお泊りする時は蓮さんの部屋だったけれど、蓮さんもこの部屋には何度か入ったことがある。 <着きました> メッセージを確認したすぐあと、アパートのインターホンが鳴る。 ドアを開けると、仕事終わりの蓮さんが立っていた。「お疲れ様です。どうぞ入ってください」 私が声をかけると、蓮さんは「お邪魔します」 いつもより声に元気がないような気がする。 チラッと蓮さんの顔を見ると、少し怒っている? 眉間にシワが寄っている気がした。 あまり見ない彼の表情と雰囲気。 仕事が忙しくて疲れているのかな。 昨日までは普通だったのに。「お疲れ様です。蓮さん、疲れてますか?」「大丈夫です。急にお邪魔してしまってすみません」 なぜだろう。なんだか嫌な予感がした。 今日、ずっと感じていた嫌なことを言われる気がして、肩に力が入る。「夕ご飯、食べましたか?何か作りましょうか?」 蓮さんの言葉を聞きたくなくて、私はいつも通りでいようと思い、彼の雰囲気を気にすることなく、そんなことをたずねてみた。「大丈夫です」 大丈夫って、どっちなんだろう。やっぱりいつもと違う。「どうしたんですか?蓮さん、体調とか。悪いですか?顔色も悪いような気がします」 彼の顔を覗き込む。「美桜は、何があっても俺を信じてくれますか?」「えっ?」 予想していなかった言葉に即答できない。 蓮さんを信じることなんて当たり前だけど。 何があってもって。理由を知りたい。「もちろんです。信じています」 蓮さんは真剣な表情で私を見つめるも、なぜか悲しそうな目をしている。「ありがとうございます」 その後、間があり「しばらく会えなくなるかもしれません。理由は言えないんです」 そう言って、私を抱きしめた。 会えなくなる?忙しいから?別れるわけではないよね? どうしてって言いたくなったけれど、理由は言えないって言われている。 いつもの蓮さんなら、きちんと説明してくれるのに。
まさか彼女がうしろにいたなんて。 全然気がつかなかった。 身体が固まりそうになったけれど「なに?」 冷静に冷静に。蓮さんのアドバイスを思い出す。 それに今は優菜が隣にいてくれて良かった。「美桜は、話したいことなんてないんだけど」 優菜が代弁してくれた。優菜はこの間のこと知っているから。 真帆ちゃんに対して、前よりもさらに厳戒態勢だ。「優菜ちゃんには言ってないんだけど。私は美桜ちゃんに言っているの。とにかく、今日のゼミの授業が終わったら、そのまま少し残って。ああ、別に優菜ちゃんは残ってなくていいから」「何それ?私だって残るよ」「どっちでもいいけど。それじゃあ、またあ
「はあ?」 思わず優菜が声を上げたが「大丈夫。行こう?」 私たちはその場から離れる。「ああ、ムカつく!なにあれ?」 空いている教室で優菜と話す。「どうするんだろうね。どうやって黒崎さんと会うつもりなんだろう。連絡先だって知らないのに」「わからない。だけど、私は負けない」 頭を抱えそうになるけれど、蓮さんは私のことが好きだと言ってくれている。それに人を簡単に傷つける彼女は、きっと蓮さんは嫌いなタイプの子だ。可愛いからってすぐに好きになるような男の人ではない。蓮だってしばらく恋愛はしていなかったって言っていたし、社内からモテるってこの前言われてた。真帆ちゃんに騙されるわけがな
話しかけてきたのは、同じ学年の藤原 真帆《ふじわら まほ》だった。 うしろには二人の女の子もいる。 真帆ちゃんとは、大学の入学時に一緒のゼミになった。知らない人たちばかりでドキドキしていた私に最初に気さくに声をかけてくれたのが真帆ちゃんだ。 「美桜ちゃん、次の講義、一緒に行こうよ」なんて声をかけてくれていたのに。 ある日をきっかけに、話しかけてくれない、ううん、無視をされるようになった。 大学一年生の時、真帆ちゃんと教室に入ろうとすると、男子学生の声が聞こえてきた。「藤原さんと東条さんって、二人でよく一緒にいるよな?仲良いのかな」「授業一緒に受けているし、仲良いんじゃない
お泊りでやることって言ったら……。 あのことを指しているんだよね、きっと。「えっと……。キスだけした」 私の発言に、優菜が飲んでいたお茶を喉に詰まらせる。「えっ?泊まって、一緒の部屋に寝たのにキスだけ?」「うん」 私は少し考え「たぶん、私が襲れたばかりだから気を遣ってくれたんだと思う。怖くないですか?って何回も聞いてくれから」 蓮さんは私に怖い思いをさせたくないって言っていたから。「そっか。まぁ、そんなことがあったらね。遠慮するか。でもすごいね。性欲我慢できない男なんていっぱいいるからね!黒崎さんは、紳士だと思う。まだ若いのに。真面目で優しくてお金持ちでって羨ましいわ。私







